鈎の形態修正と砥ぎ


 売られている鈎はそのほとんどが完成されたものとは思えません。勿論それには理由があります。・・・持ちです。
鈎先が鋭いということは鈎先の軸経が小さいわけですからすぐに曲がったり欠けてしまったりしてしまうのです。しかし、よく考えていてください。一流の道具はそんな長持ちしません。車で考えると良く判るのですが、一番持ちがいいのは普通に売られている自家用車と言われているものです。しかしスピードも出ませんし、車の基本性能である走る・止まる・曲がるの性能はイマイチです。しかしその基本性能がすこぶる良い、つまり走る・止まる・曲がる事に秀でたF1などのレーシングカーと言われる車はその基本性能は素晴らしい物があるのですが、持ちが良くありません(ほとんどの場合1レースしか持たない。というより、それ以上の持ちは削ぎ落としている)。
 あなたは乗用車のような鈎で満足できますか?もしそれでいいとか、面倒臭いからそのままでいいという人はもうこれ以上読み進んでも意味がありませんので他のページに飛んでください。ここは“一流”が判る人、もしくはそれを知りたい人、はたまた体験してみたい人・・・要は向上心がある釣り人のために書きます。

 鈎先を鋭利にすることは、まず掛かりがいい、バラシが少ないと言う事と同じなのですが、その他に糸に優しいということ、つまり一ランクもしくは二ランクくらい細い糸が使えるということです。活き餌を使うならまだしも、ナチュラルドリフトを良しとする釣りでは魚信が多くなり、しかも糸切れが少ないので結果的に好釣果につながります。
 “アワセ切れ”・・・ほとんどの釣り人が経験し、辛酸を舐めさせられた経験があるのではないでしょうか?もしその経験がなくても聞いた事くらいはあると思います。アワセは魚の口に鈎を刺し通すための作業ですが、その力が糸の強度に対して大き過ぎるときに発生するトラブルです。では、どうしてそんな強い力を掛けるの?(強いアワセをするの?)ってことになるわけですが、過去にバラシたり、すっぽ抜けたりした経験からだんだんとアワセが強くなって、普段から糸の強さの限界点まで力を加える癖が出来ている場合がほとんどだと思われます。しかし、上手な人と言われる釣り師ほどアワセが強くないことは様々なVTRや動画などで分かると思います。結局のところ、バラシに関しては鈎先が魚の口の悪い場所に刺さってしまっただけのことであり、スッポ抜けはアワセが瞬間的過ぎたのが原因で、アワセの強弱ではありません。ですから、アワセはいつもソフトにすることを心掛ける事により、より多くの魚が釣れますし、より大きな魚も捕れるのです。しかしながら、鈎先が甘いとどうしてもソフトなアワセではしっかりと刺さってくれません。ですから鈎先を鋭利にすることはとても有効なこと、って言うより最低必要条件なのです。加えて、皆様がどのような糸をお使いかは判りませんが、強く合わせると魚は大暴れします。すると糸が切れたり、口切れしたり・・・つまり捕り辛くなるのです。大暴れさせて魚の引きを楽しみたいのであれば別ですが、確実に糸に厳しい釣りとなり、その時に使っている糸での最大サイズは捕れなくなります。掛かった魚に対して余裕のある糸をお使いであれば何ら問題はありませんが、不意に掛かる大物に対しては残念ながら逃げられてしまいます。そっとアワセてそっと、そしてそーーーっと相手と距離を縮め、相手が気が付かないうちにタモに入れてしまえることが理想です。使っている糸で捕れる最大の魚を捕るためにも鈎を研いでおくこと、そしてそしてそのような釣りが出来るように普段から訓練しておくことは大型の魚を捕るための最低必要条件です。

 鈎先を鋭利にすることを『鈎先を砥ぐ』と言いますが、タナゴ釣りではその意味合いが違いますのでその辺を知りたい方は他のWebへ飛んでください。ここでは極一般的に言われる鈎先の砥ぎについて書きます。要は鈎先の鋭利化です。

 まず、鈎先を鋭利化する前に鈎の形態を整える必要があります。どのような形態が良いのか?はそれぞれの好みがあると思いますので各自の好みに合わせてください。またどのような形態が理想的なのか?が分からないと言われる方は『鈎学』のページをご覧下さい。以下は僕の場合を掲載します。

 まずはヒネリやカネリがある場合はラジオペンチでそれらを戻して真っ直ぐにします。そして鈎の内側の鈎先からカエシ(イケ)までを綺麗な円弧になるように削ります。ここが鈎砥ぎのキモと言っても過言でないくらい大切なところです。僕の場合はルーターでやってしまいますが、砥ぎの問題は削る時に発生する熱です。早く削りたいのは山々なのですが、早く削ると熱も多く発生するので金属が鈍ってしまいます。何か熱を逃がす方法を駆使してやってください。僕の場合はちょっと削っては冷やして、またちょっと削ってを繰り返しながらやっています。慣れるまでは鈎先と切削工具に水をつけてそれが蒸発しないように加減しながら削ると良いと思います。でも、やはり手砥ぎに敵う物はありません。Rに合った棒ヤスリでコツコツやられた方が良いに決まっています。

その後下の写真のようにラジオペンチで鈎先の方向を決めます。今回使用した鈎はマルト社製の大アジ13号です。


こうして挟む事で鈎先の向きが外側に開きます

この時鈎が勢い良くずれたり回転したりして危険なので、僕はラジオペンチの先に窪みを付けています。


これでも危険なことがありますので充分ご注意願います。

広げた鈎です。


当然ですが、左が開く前、右が開いた後です。

スクイ(鈎学参照)の量がかなり増えたのがお解かりいただけると思います。
これをホルダーで挟んで持ちます。最初の頃はホルダーは使わなかったのですが、手だと指の肉の分だけ鈎が動いてしまうのでホルダーを使う用になってから格段に精度が上がりました。


ホルダー


側面観(R砥ぎは最初に済ませてあります)

まずは鈎の外側から砥石を当てて側面からの鈎先形態を整えます。この時、もしR砥ぎで焼き鈍った部分があったなら一緒に削り取るように少し多目に削った方がいいかもしれません。
次に側面を砥ぐのですが、その際も同様の理由で小さなバイスを使います。僕のは使い過ぎて上面が削れ過ぎて変な形になってしまっています。どうしても鈎と一緒に削れてしまうものですから。


小さな万力(バイス)。ホームセンターで○○百円だったと思います。

先の鈎をこの小さな万力に取り付けて側面を研ぎます。


角度を一定に保ったまま鈎先から腰に方向の一方方向で研ぐのがコツです。

そして反対側も砥ぎます。
この時も、もしR砥ぎで鈍った部分があったなら一緒に削り取るように少し多目に削った方がいいと思います。

出来上がりました。


同じ鈎とは思えないくらい形も精度も変わりました。

研ぎ終えたら必ず鈎先がノーマルより鋭くなっている事を確認してください。チェックするのに爪を使う人がいますが、あれはご法度です。レベル低過ぎです。良く砥げた鈎は爪に刺したら相当のダメージを喰らいます。必ず指の腹(皮膚の方)でやってください。ちょっと当てて吸い付くように鈎先が皮膚に入り込んでしまうくらいに出来れば合格です。

※鈎はほとんどの場合錆び防止の塗装がなされています。砥ぐとこの防錆がなくなってしまうのであまり砥ぎ貯めはしないで下さい。そして砥いだらなるべく早く使っちゃいましょう!