てんから釣行時の携行品

 てんからの道具ははシンプルです。基本的に職漁師の釣りですから道具類があれこれあったのでは経費が掛かり過ぎてしまいます。よってできるだけ質素な道具で最大限の収穫を得ることを目的にしています。しかも、てんからは昭和初期くらいに山奥で営まれていた釣りです。その頃の山奥は今のように交通網が発達していませんでしたので、あまり買いに行けなかったという背景もあります。それでも型を揃えて100匹や200匹を注文に応じて釣って来たのですから、この釣りに費用を掛けることはないと思います。勿論、楽しみとしてのてんからでしたらご自由ですが、道具の量と釣れる魚の量に関係はないようです。
 基本的に竿と糸と毛鉤があれば釣りになるてんからですので、普段釣りをするときに携行するものも少ないです。


僕の場合に持っていくものはタモ網とウェストポーチだけです。

@タモ網
 希にかかる大物用です。僕はまだ下手なので大物はまず掛かりません。もっともっと活躍させたい道具なのですが、なかなか陽の目を見せられません。でも、友達は大物をよく釣ってくれるのでアシスト用に不可欠です(笑。加えて、僕の場合はほぼ100%リリースなので、大物ではなくてもタモで受けて上げた方がダメージが少ないと妄信的に思っていますが、実際は慣れた人ならタモを使わないほうが体のヌルが取れないので魚にとってはそちらの方が優しいのかもしれません。一番いいのはラバーネットでしょう。でもネットが重たいので普段の釣りでは使いたくありません。
 昔は鮎用のタモ網を使用していました。その理由は枠が大きいのがあるので大物にも充分対応することができると思ったからです。しかし、このタモ網も長年の使用で老朽化し、枠がアメーバーみたいになってしまって。。。でも、使用には耐えられたのでそのまま使っていました。そんな折、渓流釣りのカリスマと呼ばれる某有名人から自作のタモ枠をプレゼントしてくれました。それがこれです。


頂き物ですが、とても気に入っています。

当然、プレゼントされたのは枠だけですので、近所の釣具屋に網を買いに行きました。そうしたらこれに合うサイズはないとのこと。大き目のタモ網でシワだらけで使うっていう手もあるのですが、枠をプレゼントしてくれた人に申し訳ないのと、市販品は深さが浅いのでやめました。タモは主に大物が掛かった時に使うわけですが、その場合は枠の径よりもタモの深さの方が問題なのです。そこで、漁網屋さんに行ってこちらの希望を言ったら『一点物を作ってもらうしかない』ということでしたので大枚を叩いちゃいました。・・・てんから師じゃないですね。でも、結論から言わせて貰うとこれで正解でした。とにかく使いやすいタモ網に出来上がったからです。失くしたくないので首の部分に大物釣り用の糸(シーハンター100号)で輪を作り、そこに伸縮コイル尻手ロープを取り付け、もう一方にベルト通しをつないでウェストポーチのベルトに通して使ってます。
 ちなみにこのたも枠はしっかりしているので80pのサケを掬っても何も問題ありませんでした。

Aウェストポーチ
 ホームセンターで購入したものを使っています。


ハリスと糸切りは良く使うので外出しです。

竿とタモ網以外はこれだけです。てんからは本当に楽チンです。
ハリスは解禁当初は1号〜1.25号。盛期に入ると1.5号〜2号くらいを多用します。僕はキャストがヘタクソなのでハリスに結びコブをすぐに作ってしまいます。ですからハリス交換はかなり頻繁に行います。よって、仕舞っちゃうと面倒臭いので画像のようにウェストポーチの蓋にねじ止めして、引けばスルスルとハリスが取り出せるようにしてあります。当然ラインカッターも多用しますので、専用の物をやはり仕舞わずにすむようにピンオンリールで取り付けてます。
 僕の場合は昭和初期のてんからスタイルを目標としていますので、普通の服(丈夫な物)を着てその上にこれをベルトのようにして釣ってます。ただ、足回りだけは現代の物にしています。わらじとかではすぐに駄目になってしまいますし、今の渓流シューズはとても良く出来ていますので安全のためにも使わせて頂いております。こんな感じです。


滝壺を攻める僕(K氏提供)

今の釣りスタイルはとても格好がいいですが、何故かこのスタイル(昭和初期型)に憧れてしまいます。ちなみに魚籠は持ちません。リリースですから。
で、この中身はどんなになっているかといいますと、下のようになっています。


中身

中身は毛鉤ケース2個、ラインの長さ違いを一本。鈎外しのためのフォーセップス1本です。
画像の毛鉤ケースには色々の毛鉤が入っていますが、これは解禁直前の状態です。解禁当初はてんからがまったく利かず、てんからからテンカラへのチェンジを余儀なくされることがあります。そのために数種類の毛鉤を用意します。しかし、4月中盤になっててんからが盛期に突入するとケース右側のモサモサ毛鉤だけになってしまいます。この時期になると毛鉤ケースは一つで充分です。
 毛鉤ケースは100均で買った缶ペンケースに隙間テープを貼って、そこに毛鉤を刺して使ってます。あまり格好良くありませんが、本来のてんからは生活用品を巧みに利用していた釣りなので、今風の格好の良いケースは使いません。格好を気にする人はちゃんとした毛鉤ケースが売られているのでそれを使って下さい。毛鉤ケースほど釣果に関係しない物はありませんので何でもいいです。毛鉤は見て判る通りアイが大きいタイプの鈎を使っています(ルアー用の物です)。他はアイは手作りです。こちらも少し大きめに作っています。要は目が悪くなって来たってことです(笑。
 予備のラインは、僕の場合広い所で釣る事が多いので比較的長いラインが竿にセットされています。でも、沢に入ったときなどはこれでは毛鉤の消費が激しくて釣りに専念できません。渓を遡って行くうちに良い沢が出て来て・・・なんてこともたまにありますので、その時にまた車まで取りに帰るのは面倒臭いのでいつも沢用の短いものを持っています。糸巻きも糸を買って来た時に糸が巻いてあるボビンを利用しています。
 フォーセップスは仕事で使った使い古しです。持っていなくてもまったく問題ない道具ですが、何かと重宝する道具でもありますので落とさないようにピンオンリールに付けて使っています。
 そうそう、ベルトはホームセンターで買った400円のものです。

追補・・・菅笠について
スゲ(菅)の葉で編んだ笠(傘ではありません)のことですが、笠の代表として一般的にこの形の笠を菅笠と呼んでいるようですが、実は笠には沢山の種類があります。僕が使っているのは飛騨総一位平笠7寸というものです。笠は台があるので直接頭には触れません。ですから通気性がバツグンです。以前から真夏の磯釣りや船からの大物釣り(カジキやマグロ釣り)の時に使って重宝していたのですが、ケアンズにカジキを釣りに行った時、この笠にクルーが大変興味を持ち帰国時に置いて行くハメになりました。それから使ってはいなかったのですが、当会の小次郎氏のトレードマークとなっている笠スタイルを見て、その快適さを再び思い出して使い出しました。笠のいいところは、陽除けと雨除けが一つで出来るところです。乾燥した植物を編んで作っているので乾燥時にはメッシュ状態ですが、濡れると(水分を含んで)膨らんでメッシュ状でなくなり雨漏りもしない傘状態になることです。真夏の炎天下で釣っていてもまさに日陰で釣っている気分です。また、最近よく発生するゲリラ豪雨にはこんなにいい物はありません。菅笠は軽くていいのですが強度が弱く、渓流で使うと一年持たずに壊れてしまうことが多いです。そこで丈夫さが必要になるわけですが、丈夫という点では竹製の笠がいいです。しかし、竹笠は結構な重さがあるので僕は一位笠を使っています。一位とはイチイという植物の皮を使って編んだ笠です。水を含んだ時の膨張率が大きいので雨対策もバッチリです。ある程度の強さもあり軽いのが特徴です。渓流でこれを使い出してからコケることがなくなりました。キャップで釣っていた時は渓流でよく転んでいたのですが、これを使い出したら頭がいつも冷やされている所為か転ばなくなりました。ただ、一位笠も上部とはいえ渓流釣りで使った場合だいたい2年が交換時期です。欠点としてはタウンユースが出来ないこと(出来ないわけではないのですが・・・勇気がないだけです)と風に弱いことです。全身がツバの帽子状態ですから風を思い切り受け頭が振られてしまうこともあります。また、藪漕ぎのときには大きくて邪魔になることもあります。このような欠点はあるものの、それでも笠を一旦使ったら手放せなくなります。それほど素晴らしい日本の文化だと思います。