渓流魚たちの生い立ち

 サケ科の魚たちの一生は、川で生まれて海に下り、餌が豊富な海という環境により大きくなって、体力を付け再び川に戻って産卵し・・・。これを繰り返しながら子孫を繋いで来ました。ですから本来であればサケのように川で生まれた全員が海に帰るべきなのです。ところがイワナやヤマメは川に留まって海に行かない個体が居ます。これを陸封型とか河川残留型と呼んでいます。そもそもこのように海に下らない個体が存在するのは、太古の昔に地殻変動があって、大きな滝が出来たりして下ることが出来なくなった魚が川に残り、それが固定されたと言われていました。ここから『陸封型(ランドロック)』という言葉が生まれたのです。(今でもそう思っている学者は多いです。)。
 しかし現在、サケ科の魚が降海するのはそういう地殻変動ではなくて餌の問題と考えられてきています。
 川の上流は餌となる蛋白源が乏しいエリアです。よって、何百と産まれた卵が孵化してもそこで生きていけるだけの餌の量は確保できず、力のある者が餌を多く摂り体力を付けて行きます。一方力がない者は餌が捕れずに体力を失って行きます。こうなると弱い個体はここでは生きて行けないので引越しをするわけです。この時はすでに体力はないのですから、川の流れに逆らって上流へ引越すことは無駄なエネルギーを使うだけです。ですから、ほとんどの場合下流へ引っ越すのです。しかしながらその引越し先でもそのような争いが起こっています。こうしてその生息場所がその魚が生きていけるだけの充分な餌が確保出来る場合は、強い魚がその場に残ることになります。そして弱い魚はどんどんと川を下ることを余儀なくされるわけです。これが連鎖して弱い魚は海にまで下る羽目になるのです。しかし、海は広大ですから彼らの餌は充分に満たされ、弱かった魚たちも、結果として川に残った魚より巨大化し、力も付くので成魚となった暁には再び川を遡ることができ、再び産卵をし、又上記のようなことを繰り返すのです。このことから『陸封型』という言葉は化石化し、河川残留型と呼ばれるようになりました。良く考えてみればばそもそも陸に居るわけではないので、こちらの言葉の方がより真実を捕まえたいい言葉だと思います。

 いずれにせよ魚を釣り上げた時に、もしそれが放流魚でなければ、他の魚では味わえない“悠久の時”を感じられる貴重な魚だと思います。皆様も是非綺麗な溪魚を釣って感動してください。