さかさま毛鉤

 てんから釣法の醍醐味の一つに『魚を毛鉤のレンジに引きずり出す』事があります。毛鉤は重さがほとんど無いので沈め辛いので、水面近くで毛鉤を操作して毛鉤を美味しそうな餌に見せかけ、魚を魅了して下に居る魚を引きずり出して食いつかせるわけです。つまり視覚的アピールだけがこの釣りの武器です。ですからある程度以上の深場だと底付近に定位している魚たちから毛鉤は見えません。濁っている時も同様です。てんからではこれは釣らないでいい魚なのですが、僕のようなへたっぴてんから師はこの魚までを対象にしないと釣りにならない現実もあります。また、最近狙っている遡上魚も水面にまでは出て来ませんのでその必要がありました。そこでこういうてんから対象外の魚までを釣るために魚を毛鉤のレンジまで引きずり出すのではなく、毛鉤を魚のレンジに届ける毛鉤を考えました。つまりこれはてんからの範疇外のテンカラかフライ・フィッシングの範疇に入る毛鉤です。
 要はオモリを内蔵して毛鉤を沈めて釣るわけですが、普通のてんから毛鉤でこれをやると、釣りが嫌になるほど根掛かりが多発してしまいます。そこでサクラマス狙いの時用に作った毛鉤が意外に好結果をもたらしているので紹介します(たいした物じゃありませんが)。でも、この鈎を使った時点でてんからではなくテンカラですから、“自分はてんから一本で勝負”と考えている人たちにはお勧めしません。

まずサクラマスの時に使った鈎です。

    

この鈎で下記のような毛鉤を巻いて作ったのですが、サクラマスも最低2回は掛けられましたし(へたっぴなので二回とも切られました)、ボラやヘラブナまでも喰って来ました(苦笑。
 しかし、普通の渓流で使うにはいかんせん大き過ぎます。そこでこんな鈎を買ってみました。

    

MARUTOの『No.8220BD Carp Hook バーブ付 (NS)』です。MARUTOさんはコストパフォーマンスに優れ、種類も豊富なのでほとんどの釣りを網羅している素晴らしいメーカーです。僕の場合、タナゴ師でもありますので、鈎先はどこのメーカーの物でも砥いで使います。しかしながら、この砥ぐという行為は鈎先付近の軸径を細くするわけですし、砥ぐことによる発熱から焼きナマリ現象が起こって鈎先がすぐに駄目になります。特に電動のルーターなんか使ったら一発で素材の分子配列がグチャグチャになって(焼きナマリのこと)素材の性状が変わってしまいます。要は使い物にならない鈎先になってしまうということです。こうなると一発勝負的な毛鉤になってしまうのですが、それでも習慣って恐ろしいもので、砥がないと釣れる気がしないのです。最初はルーターは仕方がないとしても、自分で自分が『初心者を越えた』と思っているのであれば是非発熱の少ないオール手砥ぎ、それも砥石をゆっくりと動かして鈎の金属の特性を充分に発揮させられるように砥ぐことも覚えましょう。
 蛇足ですが、研ぐと当然鈎の塗装皮膜も削れてしまいます。ということはそこが錆びやすいということです。新たに塗装できれば一番いいのですが、一般的にはマジックで塗っておくことが多いです。多少の効果はあるようです。


 それでは早速巻き方です。まず最初にバイスに鈎を取り付けます。


この時、僕は鈎先をバイスで隠すように取り付けます。鈎先でスレッドを傷付けないようにするためです。よく『こうすると巻きづらいので、鈎先は出しておいてテクニックでスレッドを鈎先に当たらないようにする』という人もいますが、僕の場合、そうしたテクニックがないのでこうした方が確実に糸に傷付けません。巻きづらい方をテクニックでカバーします(笑。
 そして通法に従って下巻きをします。


フライ・フィッシングで使われるレッドワイヤーを取り付けます。


二重巻きにしています。

レッドワイヤーを適当な長さに切って巻きます。僕は折り返して途中まで巻く二重巻きです。余ったレッドワイヤー(上記画像でアイに差し込んである物)は後で使うのでとっておきます。
 ちなみにレッドワイヤーとは鉛線です。リードワイヤーなどと書かれているのを見かけますが、「lead」という単語は[先導する]という意味で使う時は「リード」と発音し、[鉛]の意味で使う時は「レッド」と発音します。・・・蛇足でした。

次に巻いたレッドワイヤーの上にスレッドを巻いて固定します。

   
横からと上から見た状態です。

この上に先で余ったレッドワイヤーを2〜4つ折にして乗せて、これをスレッドで固定します。


余った、お尻から出ているワイヤーは好きな所で切って、その上から通法に従ってダビング材を付けます。


下側に羽を取り付けます。


これは羽根でなくても何でもいいですが、軽いものがお勧めです。こんなのもありです。


キジやカモなどのWeb(綿毛)が多いものもいいです。

この部分に硬い素材を使うともしかしたら掛かりが悪くなるかもしれません(テストしていないので確定ではないです)。

これで出来上がりです。
この毛鉤の特徴は背中が重くてお腹が軽く、背中側の水の抵抗が少なくてお腹側の水の抵抗が大きいですから、水に射ち込んだ瞬時に鈎先を上にしてくれることです。つまり・・・さかさまに泳ぐので『さかさま毛鉤』ってわけです。


姿勢

こう見た方が実釣の際の毛鉤の姿勢です。
よって根掛かりが少なく、それによって鈎先が守られる毛鉤です。