てんから

【自分の釣りを作るのがてんから】
『てんから』って変な名前ですよね。語源は定かではありませんが、和式毛鉤釣りを総称して『てんから』と呼んでいます。そもそもはただ単に『毛鉤釣り』と言っていたのですが、同じように毛鉤を使うフライフィッシング(西洋式毛鉤釣り)と区別するために、(故)山本素石氏が敢えてこのように呼んだようです。この釣りは竿と糸と毛鈎しか使いません。とてもシンプルで、道具が要らないと言うことは安価ということでもあります。でも、敢えてもう一つ必要な物を言わせてもらえば・・・根性です(笑。
 そもそもてんからは大正から昭和の初期にかけて活躍した職漁師
※1の釣りです。職漁師とは山間の宿などで客に溪魚を振る舞うために、宿からの依頼で魚を釣って納めていた人たちです。勿論卸先は宿だけではなく、町(下界)のお店などにも卸して収入にしていました。宿からの依頼を受けた職漁師はかなり厳しかったとのことです。頼まれた日に頼まれた数の魚を型を揃えて(大小があってはまずい)納めなければなりません。現代のように冷蔵・冷凍などの保存技術がなかった頃の事ですから、当日か少なくとも(涼しい時期であれば)前日くらいの間に釣る必要がありました。しかし、その日大水が出て泥濁りで低水温になってしまうことだってあります。そんな悪条件でも確実に魚を得、依頼主に納める事は至難の業です。しかし、彼らはそれをやってのけていたのです。やれなければ依頼主は困りますからすぐに違う漁師に乗り換えてしまうのです。もしも乗り換えられてしまったら生活の糧を失ってしまうので、ただでさえ雇用がない山間部にあってはこれは死活問題です。ですから彼らは魚を捕ることに手段を選びませんでした。そしてその職漁師たちのほとんどがこのてんからという釣り方で魚を釣っていました。よって、この釣りは“釣れる釣り”などという生易しいものではなく“釣らなければならない”もしくは言葉を変えれば“何が何でも釣る”釣り方なのです。魚を釣って納める仕事ですから魚を得るためにはなんでもアリの世界です。ですからてんからにルールや規定はないのです。とにかく釣る事だけに固執した釣りです。こんな釣りですから体得すれば釣れない訳がありません。
 こんな事からてんからの特徴はなんといっても“こうしなければならない”という縛りがない事です。つまり、各人が色々な工夫をし、試行錯誤を繰り返しながら自分の釣りを育てて、自分の釣りを作って行く釣りであることです。このようなことから、てんからをする人の数だけてんからの形生まれ、それぞれの人にそれぞれのてんからがあるということが言えます。様々な人がその人なりのてんからをやるわけですから『てんから』の語源は『Ten Colour』だと言う人もいるくらいです。勿論冗談です。釣り人は釣りをしているときその人の眼から色々な物や現象を見、そして自分の脳でそれを理解します。しかし、その理解の仕方は人それぞれです。その経験がその人の釣りのベースになるのですから各人の釣りが違ってきて当然なのです。ですから、好き勝手に自分の釣りを作って行くのがてんからです。とはいうものの、やはり基本となることはあります。例えば振込みです。先にも書きましたがテンカラは糸の重さだけでこれまた軽い毛鉤を思った場所に正確に打ち込むにはそれなりのテクニックが要ります。これは好き勝手と言うよりは理論をしっかり理解し、物理的に正しく竿を操作しないと飛ばせるものではありません。でも、これは解ってしまえば実に簡単な事です。そしてそれが出来るようになった時、その瞬間からがあなたのてんからのスタートです。
 是非あなた自身のてんからを育て、作り上げてみませんか?その途中には沢山の壁があって苦しい事もあります。でも、それ以上に楽しさと幸福感に満たされる事が多いと思いますので壁を越えるのも苦になりません。一般的な釣りは他人に色々聞いてそれを参考にしてだんだんと釣れるようになって行くわけですが、他人の釣りで釣ったのですから、たとえ釣れたとしてもそれは他人の釣果です。てんからは自分の釣りですから、釣果の総てがあなたの工夫の賜物です。これが他の釣りとてんからとが大きく異なる点です。

※1:職漁師
 とても可笑しい単語です。漁師に職という文字を付けて。。。そもそも漁師ってプロですからね。ここで言う職漁師とは渓流を舞台にした漁師たちのことを言います。それも釣りで生業を立てていた人たちです。
 大きく里山の職漁師と深山の職漁師に分けられ、前者は餌釣り、後者はてんからが多かったようです。これは餌の調達に起因するようです。里山では川虫が採り放題ですから。でも山岳渓流のような場所では餌の確保は大変ですからてんからを多様したようです。その結果、てんからはイワナに合った釣り方だという人も居ます。確かにイワナは毛鉤をモグモグ長時間咥えてますから釣り易いのですが、それは餌でも同じです。決してイワナに固執した釣り方ではありません。

てんから・・・自分で自分の釣りを組み立てて行く釣り・・・考えただけでも面白そうだと思いませんか?そうなんです。本当に面白い釣りです。勿論自分の釣りを組み立てていく上で色々な壁に当たって辛くなる時もあるのですが、それを乗り越えるためにそれまでに遭遇した経験と知恵を使い、沢山の労力を使い、そしてその壁をやっと乗り越えたときの充実感は筆舌に尽くし難いです。餌釣りに比べて“してやったり感”が大きい釣りです。
 こんな面白い釣りですが、他の釣りに比べると竿も安価で、毛鉤も自分で作ってしまえば安価(?。気合が入ってしまうと高価な羽を買ってしまうので一概には言えませんが)、糸だって安くて長持ちしますからいずれにしても安上がりの釣りです。職漁師たちが莫大な経費を掛けていたらオマンマ食い上げですからね。

【テンカラとフライ・フィッシング】
てんからとよく似た釣りとして比較対比されるのがフライフィッシングです。しかし、てんからはフライフィッシングとは似て否なる物です。僕が考えるフライフィッシングとてんからの違いを書きましたので、興味のある方は下記をクリックして見て下さい。

てんからとフライ・フィッシングとの違い・・・・・・・・・・

【てんから三種】
てんからは『これがてんからだ』という決まりはありません。竿と糸と毛鉤だけを使い、糸の重さで毛鉤を投げて釣ればそれは総ててんからです。しかし、現在のてんから界を見てみるとその流派(?)が3種類に分かれるようです。

三種類のてんからへ・・・・・・・・・・・・・・・・・・




毛鉤

まずは鈎の部分名称を知らないと解かってもらえないので一応掲載します。


ちなみにてんから毛鈎は環(アイ)もしくは鈎素付きです。


てんから毛鉤には蓑毛(ハックル)の向きによって3種類に分けられます。普通毛鈎、順毛鉤、逆さ毛鈎です。普通毛鈎は軸(シャンク)から蓑毛が直角に出ている毛鈎、順毛鉤は蓑毛が後ろに傾いた毛鈎、逆さ毛鈎はその逆に蓑毛が前側に傾いた毛鈎です。

      
左から普通毛鈎、順毛鉤、逆さ毛鈎です。

順毛鉤は『花笠』とか『沈み花笠』等の別名があります。逆さ毛鈎は『逆さ花笠』とも言われます。
そもそもはこのようは分類はありませんでした。ほとんどの職漁師は一種類の毛鉤しか使わなかったので分類する必要がなかったからです。しかも職漁師たちは自分の毛鉤が誰にも見せませんでしたから分類は出来なかったし、その必要もなかったのです。せいぜい“何処の誰平毛鉤”とか“どこどこ地方の毛鉤”と言われる程度でした。しかし、これらの名前はこの蓑毛の向きによって誘い方や釣りやすいレンジが変わってくるので話をするときに便利なように付けられた名称です。

また、これは毛鉤の種類ではないのですが『当り毛鉤』という毛鈎があります。これは良く釣れる毛鉤の事。思い入れってやつでしょうか。何故かこの毛鉤を使うと魚が釣れる・・・・というような個人的嗜好に合う毛鉤を『当り毛鉤』とか『自信毛鉤』などと呼んでいます。てんからは毛鈎を操作して釣る釣りなので、その人の体形、腕の長さ、腕力などの違いや、その人が好むポイント(たるみとか瀬とか)によって決まって来るものだと思います。よって、これは当たり毛鉤だと言って貰ったとしても、貰った方の人が果たして釣れるかどうかは???です。
 現在(2013年)僕の場合の当り毛鉤は下の画像のようなものです。


モサモサ毛鉤とでも言いましょうか 。

この毛鉤は高麗キジの肩の羽を逆に巻いたものです(ウェッブ側から巻き始める)。胴は付けません。先に巻かれたウェッブが引かれることによって閉じ、胴の役割を果たしてくれるからです。胴は鈎のフトコロの幅を狭めてしまうので掛かりが浅くなりますので、付けたくないなぁ・・・と思ったことがこの毛鉤の発想の起点になっています。鈎はOWNER『シングルフック61 S-61』というサクラマスのルアー用の鈎で作っています。一般的にこの鈎のてんから毛鉤は少々大きく思うでしょうが、頑丈ですし、何よりもアイが大きいのでハリスを結ぶのが楽なのです。実釣でも難なく使えて5寸以上なら問題なく釣れます。

 僕のてんからは普通毛鉤に始まっていますが、数年を経た頃に逆さ毛鉤を何処からともなく知りました(当時は今のようなネットは普及していませんでした)。多分何かの本で見たのだと思います。そしてその毛鉤の格好良さに魅了され、釣れもしないのに逆さ毛鉤に着手。ここから僕のてんからの試行錯誤が始まったと言えます。しかしなかなか釣れません。何度も普通毛鉤に戻しちゃおうかと考えたのですが、これもまた癪なので続けていました。そうしたらだんだんと釣れるようになってきました。気が付いた事はこの毛鉤は引いている時ではなくて落ちていく時に喰うことが多いように感じたことです。そして、その落ちて行く時の姿勢がすこぶる良いのが逆さ毛鉤の特徴です。このような感じで釣っていたのでその誘いは主に縦の誘いでした。
 逆さ毛鉤は格好良く見えるからでしょうか?初心者には大人気です。しかし、使うとなると結構特殊で、相当腕の立つ人や日並が合致した時でないと他の毛ばりの方がよく釣れる気がします。しかし、それなりの人が使ったり、日並が合致した日には爆発的な結果をもたらしてくれます。僕もこの博打的なところが好きだったのですが、それなりの腕はないのでもっぱら日並に頼るばかりでした。最近は使っていなかったのですが、堀江溪愚氏が僕の逆さ毛鉤のファンで、1012年の「テンカラファンの集い」のデモフィッシングでこの逆さ毛鉤を使いたいので巻いて欲しいとの依頼を受け、久し振りに巻きました。

 
これが堀江氏が『完成形』と言ってくれた逆さ毛鉤です。

実のことを言いますと、彼は僕の逆さ毛鉤の釣りの晩期に我が家を訪れ、その件について話し、僕の毛鉤ケースを見せたところ、是非この毛鉤を頂きたいと言われたので数本を差し上げました。その後何も言わなかったので駄目だったのかなぁ・・・って思っていたら、実は彼がその後に経験したことを後年になって聞きました。ある取材に使っていたのです。小菅での取材の時でフライ・フィッシャーと二人で釣っていたのですが釣れなくて、最後の望みを賭けたのがこの毛鉤だったそうです。そうしたら爆釣になって。。。彼の独り舞台だったそうです。堀江氏は「テンカラファンの集い」のデモ・フィッシングの時に、この毛鉤を『逆さ毛鉤のほぼ完成形』と言ってくれましたが、どこが完成形なのか?が判りませんでした。で、直接聞いてみました。彼が言うにはまずは胴が細身であることを上げ、要は贅肉が総て取り省かれているのだと言ってました。確かに僕のてんからの考え方は“引き算”ですので、見た目に綺麗な物でも釣りに関係ないものは総て外して巻いてました。ちなみに写真の逆さ毛鉤は鈎に蓑毛を巻きつけて、巻いていた糸でそのまま胴を作っただけの極シンプルなものです。
 逆さ毛鉤ばかりやっていると、やはり他の毛鉤もやってみたくなります。で、また普通毛鉤に戻った僕はその釣りやすさに愕然としました。何がいいかって言うと釣果が安定しているのです。つまり逆さ毛鉤のように爆釣することはないにしても、逆さ毛鉤のようにまったく釣れないということが少ないのです。で、しばらくそれで釣っていたのですが、あともう一種類の毛鉤である順毛鉤が何とか使えるようになりたいと思いました。と言いますのも、普通毛鉤も、はたまた逆さ毛鉤まで使い込んで行くと結局順毛鉤になって行ってしまうからです(笑。で順毛鉤になっちゃうとなんか釣れない気がして。色々と巻いて使ってを繰り返し、順毛鉤としてそこそこ納得が行く鈎が巻けるようになりました。それが下に掲載する沈み花笠の巻き方の物です。鈎のサイズも上げたのですが、この鈎は釣るレンジが下がるのでしょうか?他の毛鉤よりワンサイズ大きい魚が釣れるように思えます。こうして三種類のてんから毛鉤がとりあえず使えるようになった僕ですが、こうなるとオリジナリティーが欲しくなりました。
 このような変遷を辿っていい毛鉤っていうのはどういう毛鉤なのか?と考えました。堀江氏が言ったように胴は細身であること。しかし良く目立つ事の二点が重要に思えました。胴が細身ということはフトコロの幅が広がるので掛かりが良くなりますし、大型の口にもしっかりとカンヌキを捉えてくれます。しかし胴を細くすると魚から見てのアピールが少なくなりますのでそれを補足する何かをする必要があります。そして出来たのが上記の当たり毛鉤です。見て判るでしょうか?胴はありません。鈎にハックルを巻いただけです。しかし水に入れて引くとウェッブが倒れてくれるので見た目は胴です。しかし魚が咥えて来た時にはしっかりとどいてくれますから胴がないのと同じことなので鈎が鈎としての機能を100%発揮できる毛鉤であるのがこの毛鉤の特徴です。蓑毛は普通毛鉤から沈み花笠程度の角度ですので誘い方もそれに準じて使います。この毛鉤にしてから急に尺が釣れるようになりました。数もそこそこ釣れます。そしてこの毛鉤の良い所は日並によって釣果が左右されることが少ないことです。

そもそもてんからは毛鉤にはそれほど頓着しない釣り方ですから、自分で作ってみましょう。少々形が悪くても釣果にはあまり影響しないと思います。っていうか、その毛鉤に合った釣り方が出来るかどうかだと思います。正直言いますと、僕なんか鈎に毛が付いていればいいんじゃないかと思っているくらいです。

  まず毛鉤巻きに使う道具・・・・・・
  @逆さ毛鉤の巻き方・・・・・・・
  A沈み花笠の巻き方・・・・・・・
  B普通毛鉤の巻き方・・・・・・・
  Cさかさま毛鉤の巻き方・・・・・

  Dバランスを崩した毛鉤の巻き方・・・
  Eバランスを崩した毛鉤の巻き方 Part.U・・・


竿(ロッド)
 てんから竿で一番良く使っていたのがスズミの渓愚スペシャル39Pro。理由はこの竿を開発した本人(堀江氏)と海釣りに行って、この竿で見事にテンカラでカンパチを釣り上げたからです。しかもその前に4号のハリスが飛ばされたのに竿は大丈夫だった事。つまりはメチャクチャ強い竿だと思うからです。勿論、あの人は達人ですので僕らのいい加減な竿サバキとはダンチです。それでもこの事件は魅力的に感じ、いまでも色濃く脳裏に焼き付いています。他にはD社・N社・S社だとか和竿だとか。気分次第で色々と使っています。和竿は結構シンドいっす。こうしてスズミの渓愚スペシャル39Proを使い続けて来た僕ですが、彼の亡き後、彼が僕にくれた大切な物であることに気が付き、この竿は封印しました。要は彼との思い出の日々を忘れないようにこの竿を永久保存にしたのです。で、現在一番よく使っている竿はG社のテンカラ幻翠莱(げんすいらい)3.8です。近所にG社を扱っている釣具屋がないので事あるたびに色々な釣具屋を見て回り、最初はこの竿の3.4に出会いました。他の竿に無い「何か」を感じ取った僕は、今まで使っていた3.9mが欲しかったのですが、シリーズに3.8と3.4しかありませんでした。で、3.8mを考えたのですが、てんからの場合は竿操作が釣果に大きく現れるので、その場では買わずに(っていうか、その店には3.4しか無かった)その後も他の竿を見て回りました。しかしあの竿の、他のてんから竿には無い「何か」が忘れられず、とうとうネットで3.9を購入しました。しかしながら残念なことに3.9にはその「何か」は感じられませんでした。でもこの竿は芯がビシッと通っていて他の竿に比べれば一番渓愚スペシャルに近い竿かもしれません。で、これが現在では出番が最も多い竿になっております。でも、やはりあの3.4の感じが忘れられず、その後結局3.4の方も購入。しかし、こちらの竿は、竿としてのファクターは最高レベルと思いますが、僕のてんからには向いていないらしく、振っていての気分はすこぶる良いのですが、釣果は???です。要はこういう短竿の釣りに僕の技術が付いていっていないだけのことなのですが、やはり釣れないよりは釣れた方が楽しいのでこちらの出番は少なくなっています。小沢や源流で釣りをするときに使おうと思って持ってはいます。
 最近はてんからに長竿を使い出しました。現在てんから竿として普通に手に入る竿としてはG社の水舞の5.5mだと思いますが、餌釣りの本流竿は8mとか9mあります。僕が渓流釣りを始めた頃は餌釣りでも4.5mが標準でしたから、今の本流竿はその二倍の長さにまで達しています。残念ながらてんから竿はその昔から3mくらいで、現在でも上記した程度です。本流の大物を考えた場合は間違いなく長竿が有利である事は誰が考えても明白なのですが、本流に使えるてんから竿はありません。勿論、ラインを長くすれば良いように思うかもしれません。僕も最初はそう思って12mほどのラインで釣っていました。でも、この釣りはテンカラであってもてんからではありません。餌釣りの竿が8m標準ならてんから竿も同じくらいの長さの竿が欲しいところです。今年(2012年)からサクラマスやサケををターゲットの範疇に加えましたので、5.5mでは歯が立たない事は明白です。そこでテンカラにも本流竿である8m竿を導入してダブルハンドでてんからをしてみました。まだ開発途中なのでその良し悪しは判りませんが、魚はそこそこ釣れます。ちなみにサクラマスは没りましたが、サケは73pと80cmが釣れましたので、本流の大物にも充分過ぎるスペックだと思います。このように8m以上の極端に長い竿でてんからをする方法を僕は勝手に『BIGてんから』と呼んでいます。


BIGてんからで釣った80cm

堀江氏亡き後、しばらくてんからから離れていましたが、現在は天野勝利氏にてんから指南しています。彼の釣りはあまり知りませんでしたが、てんからのことを生前の堀江氏と話している時、いつもどうしても交わらない部分があって、その度に平行線で終わっていました。お互いが否定するわけではないのですが、より“てんから”を展開させるためにどうしてもお互いが引けなかった部分です。そしてそんな僕に堀江氏は『いつか天野さんの釣りを見せてもらえばいい。きっと管理人さんの釣りの理想型がそこにあると思います。』と教えてくれました。で、天野さんを紹介してもらう約束をしていたのですが、その約束を果たす前に彼は他界してしまいました。これで天野氏との連絡は絶えたと思ったのですが、その後たまたま我家を訪れた(故)細山長司氏とその話をしていたら、彼が『天野さんは友達だから今電話してあげる』と言って我家から電話してくれ、その場で釣行の予約を入れることが出来ました。勿論彼の釣りは僕の理想型でした。魚もバンバン釣って見せてくれたので嬉しくて仕方がありませんでした。そして彼が好んで使っていたのが彼自信がデザインした『SHIMOTSUKE(シモツケ) ロッド MJB極選テンカラ 舞』。これのグリップを改造したものでした。ここにも秘密が隠されている可能性が高いので、早速僕も同じ竿を買い込み、同様の改造をして使っています。これがすこぶる良いので皆様にもお勧めなのですが、残念な事に現在、この竿はカタログ落ちして手に入らなくなっています。もし見つけたら是非購入して使ってみて下さい。できたら改造して。改造の仕方は下記のようにやりました。

てんから竿のグリップを改造する・・・・・・

道糸(ライン) 
 昔は馬素(ばす)と言って、馬の尻尾の毛を先に行くにしたがって細くなるように撚って使っていたらしいです。その後ナイロン糸を撚ったテーパーラインが主流となりましたが、現在ではフロロカーボンの単糸を使ったレベルラインが主に使われています。ナイロンの撚り糸は馬素同様に、先に行くにしたがって段々と細くなっているものです。レベルラインはフロロカーボンの3.5〜4号くらいが標準です。僕が使っているのもフロロカーボンの3.5号〜4号。もしくはナイロンの6号。いわゆるモノフィラです。ちゃんとしたテーパーの付いた糸も持ってはいますが、モノフィラで不都合を感じたことがないので、もっとも安価で取り付きやすい物を使用してます。昔は糸を撚って徐々に本数を減らしてテーパーの付いた糸を作ったりもしましたが、フロロは適当に重いので、撚る必要が無く、買って来てそのまま使えるので好きです。ですから、今ではズボラな性格も手伝って、そういう格好の良い物(テーパーライン)は使わなくなってしまいました。フロロの単糸は見え辛いのが欠点ですが、マジック(ハイマッキー)で着色してしまえばそれも克服できるそうです(僕はしませんが)。また、最近では色のついたフロロカーボンも売られていますが、色が付いたとはいえ半透明ですからやはり見にくいです。また、フロロカーボンはオツリが少ないとか、色々な長所を持っています。ただ、風はヤバイっす。風の日にはナイロンのテーパーラインを使い、強風の日には携帯ストラップの紐やバドミントンのガットなども使っちゃいます。こういう普通の生活の中の物が結構使えちゃうっていうのもてんからの面白さですし、本来てんからは職業の釣りですからそうあるはず(経費をかけない)です。ちなみに上記のサケは携帯ストラップの糸で釣りました。この糸を選んだのは伸びるからです。大物を狙う場合に限ってですが、伸びる糸と伸びない糸では竿に掛かる負担が著しく変わります。フロロカーボン系の伸びない糸はせいぜい尺〜50pくらいの魚を対象とした時に使います。
 2017年に天野さんのてんからを見せていただき、その釣りの面白さに触れてぞっこんになりました。彼のてんからはナイロンのヨリ糸を段継ぎしたものですので、僕もそれを真似て使ってます。作り方は下記参照。
  ヨリ糸の作り方・・・・・


鈎素(ハリス)(リーダー)
フロロカーボンの0.8号が標準だとか。僕が使っているのはナイロンの1号か1.5号です。魚が急に出たとき、慌てて合わすと僕の場合は超ビックリ合わせとなるので、細いと合わせ切れが起こります。なので、これ以上細いハリスは使いません。技術のある人は細いハリスを使うと、特に喰い渋りや解禁当初の低水温の時に役に立つと言われますが検証していないので判りません。そもそも活餌を使う釣り(泳がせ釣りなど)はハリスの影響は少なく、死餌を使う釣り(ネリエや冷凍オキアミと使った釣りなど)はハリスの太さが釣果に影響すると言われています。よって毛鉤に命を吹き込んで釣るてんから師にはハリスの太さはそれほど考えないで良いように思います。勿論、極端な話はさておいてのことですが、ハリスの太さ云々言う人はテンカラかTENKARAをしている人であることが多いようです。てんからの人はハリスによって釣果にそれほどの違いは出ないのでこの部分にも無頓着でいいと思います。

釣りに持って行くもの・・・・・・