ヨリ糸の作り方
今年天野勝利氏のてんからを見せていただき、その緻密に計算された道具に驚きました。天野てんからはこれらの道具があっての現在があるように思え、テクニックは彼の足元にも及びませんが、少しでも彼の釣りに近付きたいと思う僕は、まずタックルを完全コピーする必要を感じました。
彼の糸は市販品は使っておらず、自作の物でした。ナイロンの号数を変えながら総て4本ヨリでの段継になっています。彼の釣りはこの糸を操作することによって、それにつながれた毛鉤にサソイを掛けています。よって、その糸の太さと繋ぐ長さによって自ずと誘いに違いが出てくるはずです。
まずは天野氏が使用していた糸をコピーしました。それぞれ4本撚りで、上(竿先の方)から2号を2.5m、1.5号を2.5m、1号を2mの総長7.0mです。
これはとても扱いやすい糸です。天野氏が長年掛けて培ってきた結果がこの糸に落ち着いているのですからいいに決まっています。しかし、風の日には難儀します。僕が彼の所を訪れて釣りを見せていただいた日はとてもいい天気で風も少なく、キャストにはとても好都合な日でした。しかし実際には風がある日の方が段突多いはずです。よって、少し糸を改造する必要を感じたのです。しかし、このことによってサソイが悪くなってしまうようでは使い物になりません。しかし、てんから一年生としてはどのくらいの太さの糸をどのくらいの長さでつなげたらサソイにどのような影響が出るのか?を検証しておかないと今後の僕のてんからに迷いが出てくるはずです。そこで様々な糸を作って実際に使ってテストしなければなりません。また、以前からやっていた『BIGてんから(ロング・ロッド&ロング・ラインでのてんから)』への応用も考慮しなければなりません。つまり超久し振りにヨリ糸を作る必要が出たのです。それも大量に。
糸を撚るわけですから、何か回転させる物がなくてはなりません。しかも正転と逆転が出来る必要があります。手で撚る方法もありますが、指が痛くなりますし、僕の手では撚りも甘くて、撚りムラも多く、しかもやり始めたら途中で辞められません。そこで以前はスピニングリールで作っていました。糸の端をどこかに結び付けてもう一端をスピニングリールのベールに縛り付けてクルクルやって。でも、長いヨリ糸を作るにはかなりの時間と労力が必要になります。そこで電動ドリルを使うことを考えました。電動ドリルのチャックにヒートンを加えさせて使いました。しかしこちらも結構疲れます。電動ドリルは重いので巻き終わるまで持っていること自体疲れます。また、巻きの強さは糸のテンション(巻きが強くなるとテンションが上がるので)を加減するのですが、それが解り辛いのが欠点です。そこで、軽くて回転数が早くて正・逆回転できる良いモノがないか?と考えました。・・・ありました、ありました。・・・ルーターです。僕が持っているルーターはなんと最高で35,000/min。僕が持っている電動ドリルのなんと10倍。これは良さそうです。折角持っているのですから早速使ってみることにしました。使用にあたり、ルーターの先に何かしら糸を縛り付ける物がなければなりません。そこで1mmのステンレス線を使ってフック状の物を作り、それを豆チャックで保持してルーターに差し込んで使いました。
ここに糸の片方を結び付けます。投げ縄結びで良いと思います。
・・・これは凄いです。アッと言う間に撚れてしまいます。
ナイロン糸を撚るにあたっての特殊工具があります。一つは糸を折り返すときの道具です。
木の切れ端にヒートンを差し込んだだけのものです。
古いのでヒートンが錆びて来ています。・・・変えなくちゃ。
もう一つは撚り戻し器です。
スナップ付サルカンを改造
スナップを切ってちょっと形成しただけの物です。
回転の良い物を選んで作ってください。
ではヨリ糸をどんな風に作っているかというと・・・・・まずはどこかに糸の端を縛り付けます。そしてもう一端をルーターの先の保持具に縛り付けます。
結び方は何でも外れなければいいです。
4本撚りにした場合の糸の長さは、30mの単糸を撚って5mくらいになってしまいます。つまり元の糸の1/6になることはいつも頭において作ってください。今回は2.5m単位で繋ぎたいので、30mを撚って仕上がりを5mにすれば2回使えますので30mから始めました。回転させる(撚る)時間はほぼ1分です。勿論撚る糸の号数で違います。最初に両端を結び付けて弛まない程度に張って、撚っていくとだんだん張りが強くなって来ます。そのままだと切れてしまうのでだんだんと立ち位置を変え、前進しながらテンションを保ちます。そして適当な所で巻く(撚る)のをやめます。このタイミングがとても難しいです。当然ながら巻き過ぎると切れてしまいます。また、ちょっとテンションを下げただけでも糸の途中で撚りが始まってしまったりもします。この巻きを止めるタイミングはは文字では言い表せないので皆様の勘と運に任せます。何度か失敗すれば体が覚えてくれるはずです。
巻き終わったら、先の折り返しの道具のヒートンに糸を掛けます。
糸がヒートンに擦れるので、ヒートンは錆びてない物を使いましょう(苦笑
そのままズリズリと引きずりまがら、先に結んだもう一方の端まで行き、その近くに固定します(僕はルーターの先《豆チャック》を外してそれごとブロックの間に差し込んでいます)。この時、太い糸だったりすると折り返し器の重量が足りず(テンションが小さい)に、予定外に撚れはじめてしまったりするので(一端撚れてしまったら使い物になりませんので、最初からやり直しです)、そんな場合はもう一個折り返し器を作っておいて一つはヒートンうぃ前後に付けておいて連結して使えば良いと思います。が、僕はズボラなので、偶然脇にあった折りたたみの椅子を上から覆い被せるように置いたら具合が良かったので、それで重量を増しました。
案外良い具合です。
椅子の布が糸に触れるので糸が傷付かずに良い具合です。折り返し器のおかげで糸は張ったままなのでまだ糸は平行線のままです。その折り返し器のヒートンに引っ掛けてあった部分を糸のテンションを下げないまま(引っ張ったまま)撚り戻し器に掛け替えます。そしてテンションを弱めると一気に撚りが入りだします。
もの凄い勢いで撚れて行きます。
これでお終いです。ここで注意しなくてはならないのはこれで完全に撚れているわけではありません。撚り戻し器の回転抵抗や、ナイロン分子が元に戻る時間があります。よって、撚り戻し器の回転が止まっても、また撚り戻し器ごと引っ張って緩めるとまた撚り戻し器が回転して撚りが掛かります。これを撚り戻し器が回転しなくなるまで繰り返します。終わったら撚り戻し機から糸を外して、もう一方の結びの所を切断し、すぐに指で押さえて(切ったまま手を離すと解けてしまう)結びコブを作って止めます。これで2本撚りの糸が出来ました。
出来上がった2本撚りの糸を、もう一度同様な手順で撚れば4本撚りになります。この時に注意しなくてはならないのは撚りを掛ける方向を二本撚りの時と逆の方向にすることです。
出来上がった撚り糸です。
そしてこのまま最低でも24時間以上放置します。撚ったすぐ後はまだ糸の撚れが安定していない場合があるからです。安定していない糸を放置すると・・・
安定していない糸は放っておくと、一晩でこんなふうになります。
最初は綺麗に円になっていた物が、一晩置くとこんなになっていることがあります。こんな時はもう一度強く引っ張って放してを数回繰り返して撚りを安定させる必要があります。だいたいこうなっても一度それをやれば撚れは安定しますので翌日になっても円を描いたままになっています。
こうやって様々な太さの撚り糸を様々なサイズに作って、それを色々と繋ぎ合わせてもっとも毛鉤を操作しやすい糸を作り上げて行きます。かなり膨大なテストになります。しかし、その人の竿の振り方の癖やサソイ方の癖があるので、一概にこれが一番というものはありません。ですから、実際に作って、実際に使って、魚を掛けて捕ってから、自分のてんからにはこれが合うというものを作り出していくしか方法がないのです。
透明のナイロンで撚ったヨリ糸を拡大してみると・・・
綺麗でしょ?ダイヤモンドの小粒の連結みたいです。
綺麗。まるでジュエリーのようです。一回使ったらこの輝きはなくなってしまうのですが。
ライン作り・・・結構楽しいです。色々な糸を撚って、それをランダムな長さに繋げて、実際に竿につけて振ってみて・・・。その感触から想定して継ぎの長さをそれぞれ変えてみたり。そしてその感触から、そよ風の中で使う物や強風の中で使う物など。はたまた本流で使う物や小渓で使う物など・・・色々作らなければなりません。
・・・・・しばらくはこれで楽しめそうです。