砥ぎ鈎の作り方

 その昔、タナゴ釣りを始めた頃はタイリクバラタナゴを釣るのがタナゴ釣りだと思っていました。というより、タナゴ=タイリクバラタナゴと思っていたのです。そんな頃にこの研ぎ鈎を知りました。タナゴ釣りの世界で“砥ぐ”というのは、ただ単に鈎先を鋭くするのではなく、鈎先を小さくしてフトコロの最深部から鈎先までの距離を小さくしてより小さなタナゴの口の中に鈎先が入りやすくすることを意味することは前述しました。ただ、実際には最小にするばかりではなく、立ち上げの長さは変えないで、ただ単に鈎先を鋭くするだけで使う場合もあります。よって、このWebではタナゴの鈎先を小さくする砥ぎをタナゴ砥ぎ、立ち上げの長さは変えない砥ぎを普通砥ぎと使い分けようと思います。鈎を砥ぐことを知ったその頃の僕は、使う総ての鈎を砥いで使っていました。確かに小さなタナゴが釣り易くなり研ぎ鈎の絶大な効果を体感しました。ただ、なかなか上手く砥げません。これは今でも変わらないのですが、そんなヘタクソに砥いだ鈎でも釣果に大きな差が出るので面白かったのです。研ぎ鈎を持って霞ヶ浦参りが始まり、ドックのスロープで毎回大漁して、少々鼻高々でした。しかし、釣れて来るのは小さなタイリクバラタナゴばかりで、大型の魚はことごとくバラし、それに対処するために対策を考えている時でした。ベテラン風のタナゴ釣り師が来て大型のタナゴを次々に上げているのを見てしまったので話しかけてみました。とても気さくな方で色々と教えてくれました。そして『タイリクバラタナゴはいつでも釣れるから在来種を狙ってみてください。よろしかったら教えますよ。』って言ってくれました。その頃はタナゴの種類についてあまり知らなかったのですが、確かに時々タイリクバラタナゴではないと思われるタナゴが釣れる事がありました。その時も数百のタナゴを釣っていたので、その中からタイリクバラタナゴっぽくない魚を選んでその人に同定してもらったら、なんとヤリタナゴとアカヒレタビラが含まれていました。・・・なんか、もう・・・嬉しくって。でも、その釣り師は続けて『もう少し大きいのを狙ってみてください。』と。確かにその人が釣っているタナゴはタイリクバラタナゴでさえも僕が釣っているものよりは一回りも二回りも大きい魚でした。研ぎ鈎で釣れるタイリクバラタナゴは目で見なければ判らないことがあるほど引きが弱いです。要は釣り味に欠けます。しかし、その人が釣る魚は大きいので気持ちが良さそうでした。そして早速その人にタナゴ釣りを教えていただく事にしました。その人のタナゴ釣りは特殊でしたが、その釣技に卓越したものを感じ、そしていさぎの良さを見ました。こういう釣りを見てしまうの自分もそうなりたいと願うのは当然です。そして僕のタナゴ釣り研究が始まりました。そしてその過程でこの研ぎ鈎の欠点にも気が付き、それから砥ぐ事は辞めていました。
 そんな折、当会にタナゴ釣りに自信を持った会員が入って来られて研ぎ鈎の優秀性を僕に何度も話してくれました。で、大型をバラしやすくないか?と聞いてみると完全否定されてしまいました。釣り方で何とでもなるとのことです。・・・ということは釣り方を変えれば小型から大型まで釣れるということです。僕の心が揺れ動きました。そして、再び砥ぎ始めたのですが、何度やっても結果は一緒。どんな釣り方をしたら大型まで釣れるのか?砥ぎ鈎で大型を釣るという憧れがどんどん膨らんで行きました。しかし、解決の糸口はまったく見えず、それから数ヵ月後にたまたま彼と同行することがあって彼の釣りを見ていたら大型をことごとくバラしています。やはり彼の技術をもってしても大型がバレるのは阻止できない、というか研ぎ鈎で大型を釣るのはどんな釣り方をしても無理という結論に至り彼自身が墓穴を掘ってしまいました。そして僕もその事を確信し、彼も僕と同様の考えになりました。
 しかしながら、小型を狙うタイリクバラタナゴ釣りでは、専門に狙おうとするならやはりこの研ぎ鈎は必須アイテムだと思います。ただ、砥ぐのは面倒臭いですので砥がないで使っている人も多々見受けられます。ですから必ず砥がなくてはならないというものではありません。砥いでなくてもちゃんと釣れます。ただ、研ぎ鈎を使うのと使わないのでは一回の釣行で倍くらいの違いが出ると思います。

 ではその面倒臭い砥ぎ鈎の作り方について書いてみようと思います。
まずは僕のベーシックな砥ぎ方です。

まず砥ぐ道具です。


@きずみ(×10) 時計屋さんなどが瞼に挟んで使っているのを見た事があると思いますが、あれです。要は両手が空く片目のルーペです。細かな傷を見つけたりすることからの命名だと思います。

A老眼鏡 老眼というよりはこれも両手が空く両目の弱拡大のルーペとして使っています。

B鈎ホルダー す○もで購入できます。タナゴ鈎は小さ過ぎるので直接手で挟んでは砥げません。よって、これに鈎を挟んで保持して砥ぎます。

CRやすり 鈎のR砥ぎのときに使う物です。比較的先が太くて比較的粗めの歯医者が歯を削る物をほるだーにつけて使っています。

DRやすり Cと同じですが、こちらは先が比較的鋭利で目が細かいもののです。

ERやすり す○もオリジナル ダイヤモンドヤスリ 丸 #1200 CとDでほとんどR砥ぎは終わるのであまり使うことはありませんが、細かい砥ぎが必要な時に時々出番があります。

F砥石 どこで手に入れたのか?少々荒削りができる柔らかいやすりです。

Gアーカンサスストーンのハードです。中削り用です。

Hアーカンサスストーンのトランスルーセントです。最近手に入れました。チョイ削り&仕上げ用です。


これらを使って下のように砥いで行きます。

今回使用する鈎は『マルフジ 別誂研ぎたなご くのいち Z-043』を使ってみました。理由は特にありませんが、案外砥ぎ辛い鈎なのでこの鈎の砥いだ物の在庫が少なくなっていたからです。この鈎の研ぎ辛さは何と言ってもイケ(カエシ)の位置が高いことです。


『マルフジ 別誂研ぎたなご くのいち Z-043』の鈎先

この鈎の、まずはR研ぎをします。R研ぎとはイケから鈎先までの内側に綺麗な湾曲を付けるために行う作業です。


赤い部分を削ります

次に表側を削って鈎先を細くします。


赤い部分を削ります

ここで両側面を削って鈎先を鋭利にします。

次は底面を削ります。これはとても大切です。立ち上がりの高さを減らすので効果が大きいからです。


赤い部分を削ります。

形を整えます。


赤い部分を削ります。

完成です。


完成

これがMAXに小さくした場合です。
まだまだヘタッピですし、個人的に“こうやってます”的なことですので皆様も色々とやってみてください。きっともっと楽でいい砥ぎ方があるはずです。

 見て判るとおり誰が見てもいい形ではないですね。その理由はイケの位置です。イケの位置が低い事とその角度が良くないとどんなに頑張ってもいい研ぎ鈎にはなりません。

 僕が砥いだのでヘタクソですが、実際の研ぎ鈎の画像を貼り付けておきます。総ての画像の一番左側の鈎は、比較対象のため何もいじっていないノーマルの鈎です。

マルフジ 別誂研ぎたなご 極小鈎戻付 Z-035


新紅鱗タナゴ※1


オーナー 一寸タナゴ 「流線」


マルフジ 別誂研ぎたなご くのいち Z-043


オーナー 一寸タナゴ 「オカメ」

※1 新紅鱗タナゴは一番使うので3種類の研ぎにしています。

人研ぎ鈎は鈎先が鋭利過ぎるほど鋭いですから使い方にコツがあります。
砥ぎ鈎は鈎先が命です。これが駄目になったら砥ぎ鈎としての能力はなくなってしまいます。少しでも鈎先が長持ちするように使う側が注意しなくてはいけません。それには・・・

@アワセはしない
  普通の釣りでは、魚信があった時にアワセという竿操作をします。これは鈎を魚の口にがっちり掛ける、要は鈎先からイケまでを貫通させるための操作です。しかし、研ぎ鈎の場合はほとんどの場合、イケの手前まで刺さってます。ですから、あとは糸を張ってあげるだけでイケまで貫通します。ですからアワセは必要ありません。というより、してはいけません。その理由は、研ぎ鈎でアワセをくれた釣りをすると折角手塩にかけた鈎先がすぐに駄目になってしまうからです。そんなことなら砥がないで使ったほうがよほど効率的です。研ぎ鈎は魔法の鈎ですが、その鋭い鈎先を長生きさせるため、乱暴な取り扱いはご法度なのです。

A鈎を外す時は鈎先の方向に合わせてそーーーっと抜く
  @と趣旨は一緒です。鈎先が鋭利であればあるほど鈎先の細くなった部分の長さが増えます。真っ直ぐな力に耐えられたとしても横に力を加えたら案外簡単に曲がってしまいます。鈎先が曲がった鈎はもうその時点で鈎としての機能を持たなくなります。

B餌付けなどで仕掛けを上げたとき、鈎を指で止めない。
  仕掛けを上げた時、ナマリ下辺りをつかんでそのまま仕掛けを滑らせて鈎を指に当てて止めるのが僕だけだったらいいのですが、皆様もそれをしているようだったら、この動作も鈎先を駄目にします。要は砥ぎ鈎の鈎先は鋭いので指に当たった時点で僅かに刺さっているのです。そのまま鈎の軸を持って上げたら鈎先は曲がってしまいます。ですから必ずハリスを持って鈎を指に刺さないようにします。でも、注意していても結構やってしまいます。もし、指に少しでも刺さったらAに準じて鈎先に負担をかけないように慎重に抜くようにしましょう。

最低限このくらいは注意して使うようにしましょう。
中には面倒臭いと言われる方もおられるでしょう。そんな人は砥ぎ鈎は不向きです。普通の購入したままで使えばかなり鈎先はもちますのでそちらがお勧めです
。でも、少しでもいい釣果を上げたいと思われる方は上記3点をはじめ、それ以外にも鈎先を傷めつける釣りをしているようでしたら改善の必要があります。